化石燃料の枯渇とその燃焼による地球環境問題に伴い、クリーンエネルギー生成技術の開発は世界的に注目されているテーマである。 クリーンエネルギー生成のための様々な方法が提案されているが、その中でも光触媒水分解が有望視されている。 この方法は、太陽エネルギーを利用して水(H2O)分子を分解し、二水素(H2)を得るものである。
今回、東京工業大学の前田和彦教授らの研究チームは、ナノスケールの金属酸化物シートとルテニウム色素分子からなる新しい光触媒を開発し、色素増感太陽電池と同様のメカニズムで作用させることに成功した。 水をH2とO2に分解する際に全体的に光触媒活性を発揮する金属酸化物はバンドギャップが広いのに対し、色素増感酸化物は太陽光の主成分である可視光を利用することができます(図1)。 この新しい光触媒は、1時間あたり1960回の回転頻度で水からH2を生成することができ、外部量子収率は2.4%である。
この結果は、色素増感型光触媒の可視光下での最高記録であり、前田教授のチームは、人工光合成(水と太陽光を使って持続的にエネルギーを生産する自然のプロセスを再現する)の目標に一歩近づいたと言える。
『Journal of the American Chemical Society』で報告されたこの新材料は、表面積の大きいニオブ酸カルシウムナノシート(HCa2Nb3O10)に、水素発生サイトとして白金(Pt)ナノクラスターがインターカレートされて構成されたもので、白金ナノクラスターが光触媒となる。 しかし、白金で修飾されたナノシートは単独では機能せず、太陽光を効率よく吸収できない。 そこで、可視光を吸収するルテニウム色素分子をナノシートに結合させることで、太陽光によるH2発生を可能にした(図2)。
この材料を効率的にしているのは、ラメラ状のHCa2Nb3O10を化学的に剥離することで得られるナノシートの利用である。 ナノシートの高い表面積と構造の柔軟性により、色素の負荷とH2発生サイトの密度が最大化され、H2発生効率が改善される。 また、前田助教らは、ナノシートの性能を最適化するために、電子移動効率の向上に重要な役割を果たすアモルファス・アルミナでナノシートを修飾した。 「このアルミナ修飾は、色素増感によるH2生成の主要なステップである、励起状態の色素からナノシートへの電子注入を妨げることなく、反応中の色素再生を促進する、前例のないものでした」と前田助教は語る。「つい最近まで、色素増感光触媒を用いて可視光下で水の分解によるH2生成を高効率で行うことは、非常に困難だと考えられてきました」と、前田助教は言う。 「今回の結果は、慎重に設計された分子とナノ材料のハイブリッドを用いることで、これが実際に可能であることを明確に示しています” と前田教授は説明する。
効率と長期耐久性を向上させるために、ハイブリッド光触媒の設計をさらに最適化する必要があるので、さらなる研究を行う必要があります。 光触媒による水分解は、環境をさらに悪化させることなく社会のエネルギー需要を満たす重要な手段となる可能性があり、今回のような研究は、環境に優しい未来という目標に到達するための不可欠な足がかりとなる。